VOL.179 [全酪新報 2016年3月20日]
(株)セイワ(三重県鈴鹿市、木本年縷社長)は1959年、発酵生成・有効微生物「ビタコーゲン」を発売。以来、半世紀以上にわたって全国の酪農家から高く評価され続けている。今号では、鹿児島県酪農協の協力を受け、長年のユーザーである南九州市の吉崎牧場、中種子町のOKI牧場、鹿屋市の木原牧場に話を聞いた。3牧場とも嗜好性が高く、西南暖地における夏バテ対策・食い込みの向上に大きな効果を実感しているほか、良質たい肥の生産や乳質向上、牧場内の臭気対策といった多様な効果を高く評価。もはやビタコーゲンは欠かせないものと位置付けている。
吉崎牧場は、薩摩半島南部の南九州市(旧頴娃町)にある。フリーバーン牛舎で経産牛170頭、育成牛・子牛60頭、合計230頭を飼養し、たい肥は自家ほ場に散布するほか、牧場周辺はさつま芋や露地野菜、お茶の生産が盛んなため、たい肥処理に困ることはない。
ビタコーゲンは、乳質の改善と繁殖を向上させるために使い始めた。吉崎一男さん(64歳)は「使い始めて17年くらいかな。牛の体質が改善され、夏バテしなくなった。産後の立ち上がりもいい」と高く評価している。
また、牧場内の臭気対策とたい肥の品質向上の効果も実感。「悪臭がしないし、ハエが少ないから、酪農家の仲間からは『何かしているのか』と聞かれた時は、『何もしていない。ビタコーゲンを食わせてるだけ』と答えた。かつては殺虫剤でハエを退治していたけど、今は使わなくても済む程度に発生を抑制できている。たい肥も悪臭がしないから、評判がいい。家庭菜園用として、民家の近くにも撒ける」と強調した。
ビタコーゲンは搾乳牛と乾乳牛に通年給与。TMRは二次発酵を防ぐため、一年を通じて朝と晩の2回作る。「2回作ると食い込みが違う。特に夏は全然違う。1日1回作ったTMRで『これで頑張ってください』とは言えないよ。いいものを与えないと、いい乳は出してもらえない。人間がラクして牛に頑張れとは言えない。人間も頑張らないと」と笑顔で話した。
吉崎牧場では、牛がパドックと牛舎を自由に行き来できる構造になっている。「搾乳が終わったら、たいていの牛は出ていく。近くに寄っても起きないくらい、気持ちよく寝ている時もある」と牛が快適に過ごせる時間作りにも配慮している。
1979年に40頭のつなぎ牛舎を建設。その10年後に100頭のフリーストール牛舎に変更し、飼料は100%購入の形態に切り替えた。さらにその4年後には、フリーバーンに改造し、増築を重ねて現在の200頭規模の牛舎になった。
しかし、粗飼料価格が上昇し始めたことから、6年ほど前から自給飼料生産を再開。現在はイタリアンを中心に25ヘクタール作っている。今後は人手不足の問題もあり、搾乳牛の頭数を減らす予定だが、飼養スペースは十分にある。そこで、それまでは毎年40頭必要だった導入牛を、自家育成で後継牛を確保するスタイルに変更することとし、さらなるコスト低減を図っている。
吉崎さんは「育成牛を充分に抱えていれば、従業員が確保できるなどの条件が揃った時に搾れる。それまでの間は個体販売も考えている」と話した。
OKI牧場の興(おき)由美子さん(48歳)と恵里子さん(45歳)姉妹は、不慮の事故に遭った母・八重子さん(故人)を看病するため、鹿児島市内の会社を辞めて種子島の中種子町に帰った。看病の傍ら、父・勝幸さん(74歳)の牧場も手伝っていたが、翌年八重子さんは逝去。興さん姉妹はそのまま就農した。
興さん姉妹が就農した10年前、育成牛に元気がない時期があった。そこで、種子島酪農協(現鹿児島県酪農協種子島支所)の職員だった中目忠雄氏(現人工授精師)から「食い込みが良くなるから、試しに給与してみてはどうか」とビタコーゲンを紹介された。実際に給与してみると、食い込みが良くなった。由美子さんは「それから徐々に給与する領域を広げたら、その牛群に効果が表れ、最終的に搾乳牛まで給与するようになった」と述懐した。
全てのステージでビタコーゲンを規定量給与していることに加え、搾乳牛を増頭したことにより、牧場全体の使用量が大幅に増加。現在は1日2袋使っている。すると、たい肥にも変化が表れた。
「ユーザーから『今年はたい肥の臭気が全く気にならなかった』と言われた。急激に使う量を増やしたからだと思う。乳房炎もほとんど発生しなくなり、昨年は年間を通じて体細胞数は9万だった。最も効果があったのはたい肥の臭気だけど、牛群全体の調子は良くなるし、分娩後のトラブルもない。嗜好性が良いから、乾乳牛の乾物摂取量も増えた」と由美子さん。その上で「良いものは惜しみなく与える。とにかく継続が大事。続けることで結果が出る。そうすることで結局、人間がラクになる」と高く評価している。「欠かすことができないもの。県酪さんには在庫が切れることがないよう、しっかり確保してもらうようお願いしている」と笑顔で話した。
就農当時は搾乳牛40頭規模だったが、その時はすでに規模拡大の途中だった。その後も規模拡大を進め、現在は経産牛190頭(うち搾乳牛163頭)、育成牛53頭、総頭数243頭の大型経営。自給飼料はイタリアンとデントコーン。安納芋の生産者と耕畜連携で作付面積を徐々に増やすなど、現在は合わせて30ヘクタール作っている。年間出荷乳量は1650トンで、1頭当たり乳量は1万キロを超える。
OKI牧場では、毎日同じ時間に同じ作業を実行することを心掛けている。由美子さんは「そうすることで、牛群の異常をすぐに発見できる。『頭数が増えて大変でしょ』と言われるけど、ルーティーンを守ることで、管理しやすくなった」と説明した。
鹿屋市の木原牧場は、自給飼料生産と自家育成で後継牛を確保する経営形態。1頭当たり乳量1万キロの牛群で、改良にも力を注いでいる。
飼養頭数は経産牛55頭(うち搾乳牛47頭)、育成牛33頭。経産牛にはほぼ100%ホルスタインを付け、後継牛を確保。未経産牛にはET和牛かF1を付ける。また、繁殖和牛を11頭飼養。和牛は年間9~10頭出荷している。自給飼料は、イタリアン20ヘクタール、デントコーン7ヘクタール、永年牧草3ヘクタール。粗飼料は8割ほど自給している。
ビタコーゲンは20年以上前、大隅酪農協(現鹿児島県酪農協大隅支所)の職員から、体細胞対策と臭気対策に効果があると勧められた。木原貴久さん(49歳)は「給与してみて感じたのは、嗜好性の高さ。残飼がなくなった。人間が嗅いでもいい匂いがするし、微生物が働いているから、牛が好んでよく食べるんだと思った。使い始めたらやめられない」とその効果を実感。妻・留美子さん(49歳)は「ここ10年くらいは、故障する牛が少なくなったし、夏場に乳量がガタ落ちすることもない」と話す。
ビタコーゲンは年間を通じて搾乳牛1頭当たり規定量を朝晩2回に分けて給与。3カ月ほど前から和牛の子牛にも給与を始めた。貴久さんは「子牛たちは私が給餌しに行くのを楽しみに待っている。和牛にどんな効果があるのか、これからが楽しみ」と今後に期待を寄せている。
牛舎は可能な限り丁寧に掃除し、きれいな床で牛がゆっくりできるような環境作りを心掛ける。貴久さんは「昼間はゆっくり寝られるよう、牛舎には極力入らない。残飼がないのは『飼料が足りないからじゃないか』と言われることがあるけど、ゆったり寛いでいるから、足りないわけじゃない」と苦笑した。
昨年10月、木原牧場にはうれしい出来事があった。鹿児島県代表で出場した北海道全共では、第9部(後代検定娘牛、36月以上48月未満)で1等4席を獲得。体型審査で90点を獲得した牛は、もうじき8産目を迎える。留美子さんは「夫はとにかく牛好き。だから、牛の管理が丁寧。全共に出場できたのはそのご褒美では」と笑った。
また、もう一つの出来事は、長男・昴大さん(21歳)の就農。全共に出場する貴久さんの不在時には、留美子さんと牧場を守った。「和牛よりも毎日乳量に変動がある酪農に魅力を感じているみたい。将来的には私たち夫婦が和牛、息子が酪農という形ができれば」と目を細めた。