VOL.183 [デーリィマン誌 2017年11月号]
北海道の南西部に位置するせたな町は、2005年に大成町、北檜山町、瀬棚町の3町が合併して誕生。日本海に面し道南の最高峰狩場山(1,520メートル)をはじめとする1,000メートル級の山々が連なり、町の中心には清流後志利別川が流れ、その豊かな自然がもたらす山海の幸を四季折々楽しむことができる。今回はせたな町瀬棚区の弥左牧場を訪問した。
経営主は牧場3代目の弥左直人さん(41)で、16年に2代目の父光男さん(66)から経営を引き継いだ。現在は弥左さんと妻・麻衣子さん(34)、長男・斗真くん(7)、次男・大地くん(5)、長女・茉里奈ちゃん(2)、そして光男さんと母・ひろ子さん(65)、祖母・たけさん(94)の8人で暮らしている。
弥左さんは高校を卒業した後、地元の土木関連会社に就職したが、28歳の時に両親が相次いで体調を崩したため、会社勤めをしながら牧場を手伝うことになった。朝起きて牛の世話をしてから出勤し、帰宅後も牛舎で働く生活が2年続いた。この時期に将来を考えるようになり、「祖父の代から続く歴史ある牧場を閉めるわけにはいかない」と12年勤めた会社を退職し30歳で就農。サラリーマンから酪農家に転身した。
就農当初から搾乳など乳牛の管理作業は難なくこなせたが、「機械類は全て父が操作していたので、そこは全然分からなかった。トラクタの運転もしたことがなかったし…(笑)」と当時を振り返る。しかし年々、仕事の比重は光男さんから弥左さんへシフト。機械作業はもちろん、餌の調製や圃場管理も任されるようになり、そして昨年、牧場経営そのものを託された。現在の経営規模は、耕地が50ヘクタール(うちトウモロコシ4、放牧地4.5)、乳牛総数55頭(うち経産牛37)をつなぎ飼い方式で飼養、1頭当たりの年間平均乳量は9,000キロ、乳脂率3.7パーセント、乳タンパク質率3.3パーセント、直近の年間出荷乳量は310トン。育成牛は夏場のみ町営牧場に年間7、8頭預けている。
弥左さんが乳牛の餌の食い込み不足対策として導入したのがビタコーゲン。導入前は草地更新などで牧草の質を改善することで対応してきたが、4年前、天候不順による刈り取り遅れが発生し、高品質牧草を確保できなくなった時に、北海道オリオン㈱の営業担当者からビタコーゲンを勧められた。導入してすぐに手応えを感じた。「食い込みが改善されたと同時に、反すう時間が長くなった。食べ残しが減り、牛舎に残った餌を捨てることもなくなった」と効果の即効性に驚いた。
「夏の暑い時期でも食い込み量が落ちることがなく、乳量が落ちる前に発情が来るようになった。牛の体調が良いのが明らかに分かる」と弥左さん。また、「緩めだった便が締まった。糞に、形が残っていたトウモロコシも細かくなった」と、消化促進と軟便対策での効果も実感した。さらに良好な健康状態が維持されることで、ビタコーゲン導入前と比較して、乳房炎の発症率が極端に減少した。ビタコーゲンは指定された量を朝と夕の1日2回、餌に混ぜて与えている。また、日常の使用とは別に共進会に出品する乳牛に哺育用ビタコーゲンを使っている。出品牛をトラックに載せる前に給与することで、輸送のストレスで食い込みが落ちるのを防げるという。
共進会には光男さんの代から積極的に参加し、その志は直人さんにも受け継がれた。「共進会では自分の育成技術がどのレベルにあるのかが確認できる。勝ち負けの波はあるが、負けた時は次回への発奮材料になる」。しかし、共進会出場の一番の目的は他にある。「特に全道大会では、普段会えない人たちと話すことで、さまざまな情報を得ることができる。自分にはまねできないことが多いけれど、そこはできる範囲で」と弥左さん。今年は、春の道南B&Wショーに2頭、秋の北海道ホルスタインナショナルショーに1頭出品した。
共進会用の乳牛については特別な飼養管理は行わず、他の乳牛と同じように管理している。以前、共進会出品用に牛体を大きくする目的でいつもと違う牧草を与えたところトラブルが続いたからだ。それからは全ての牛たちを同じように育て、その中で良い乳牛を共進会に出品するようにした。そうすることで、結果的に牛群全体の底上げにつながっている。
弥左さんが目指しているのは機能性の高い乳牛をつくること。乳量が多く、故障が少なく、共進会にも出品できる牛。そのためには乳牛に無理をさせず、健康の維持が何より大切と考えている。現在、乳牛の健康維持に大きな役割を果たしているビタコーゲンは、弥左牧場にとって欠かせないものの一つとなっている。。