VOL.186 [デーリィマン誌 2019年6月号]
日本最東端のマチとなる北海道根室市。太平洋とオホーツク海に面していることから花咲きガニやサンマなどの水産資源が豊富で、根室港は全国有数の水揚げ量を誇る。また、大きな山岳や河川はなく、牧畜に適した平坦な土地が多いことから、厚床地区を中心に牧場風景が広がる。今回は根室市湖南の宮内牧場を訪問した。
経営主は牧場3代目の宮内翔平さん(30)で、4年前に2代目の父・正勝さん(69)から経営を引き継いだ。現在は妻・志穂さん(29)、長男・遥叶くん(7)、次男・悠叶くん(4)、そして正勝さんと母・真利子さん(60)の6人で暮らしている。
幼い頃から牧場に入り作業を手伝っていた宮内さんは、隣町の北海道別海高校卒業後に同校の農業特別専攻課に進学。そこで2年間、酪農に関する専門的な知識や技術を学んだ後に実家で就農した。祖父が広島県から入植して始めた牧場を4年前に正勝さんから引き継ぎ、宮内さん夫妻と両親の4人で運営・管理している。乳牛が増えるたびに増築を繰り返していた牛舎の老朽化が進んだことから、2年前に新築を決断。昨年12月に88床のつなぎ飼い牛舎が完成し、2月から新牛舎での飼養を始めた。現在の経営規模は、耕地面積が120ha(牧草105、放牧地15)、乳牛総数150頭(うち経産牛80)で、育成は全て自家で行う。直近の年間総出荷乳量は600t、個体年間個体乳量は9,300kg、乳脂率4.0%、無脂固形分率8.7%。
宮内さんは牛舎の新築を決めた頃から、仕事に対する考え方や姿勢が変わったと言う。「目の前の仕事を漠然とこなすだけだったのが、将来を見据えて今何をするべきかを考えて実践し、結果を求めるようになった」と振り返る。新牛舎は家族経営を前提とした範囲内での規模とし、フリーストールや搾乳ロボットをあえて選択肢から外して、つなぎ飼い方式での最新の搾乳施設・機械を採用した。「牛への負担が大きい飼養方式の変更は避けたかった。また、搾乳時に個体の状態を確認したいので、ロボットの導入は考えなかった」。新牛舎には自動給餌機や餌寄せロボット、ダブルタップのパイプラインミルカーのほか、個体ごとの情報を一括管理するPCソフトを導入。さらに給餌や搾乳を連動して行う精密飼養管理システムも構築するなど、きめ細かい管理を省力的に行える、家族経営に適した生産体制を整えた。牛舎の外観にもこだわり、外壁には住宅用のサイディングを採用。ダークメタリック色に赤いラインが引かれたデザインは、国道沿いに点在する牧場牛舎の中でも一際目立つ存在となっている。
宮内牧場では正勝さんの代からビタコーゲンを使用している。「牧場を手伝うようになった頃から牛舎にビタコーゲンが積まれていた」と宮内さん。代替わりしてもやめることなく使用してきたが、今回の施設更新時に半月ほど給与できない状況が続くと、乳牛に硬便の症状が多く見られるようになった。環境の変化が原因かと考え、飼料の配合を調整したが症状が改善しない。「そういえば、新牛舎に移ってからビタコーゲンを与えていない」。施設のシステム運用が軌道に乗ったところで、ビタコーゲンの給与を再開すると、すぐに便の状態は改善された。
ビタコーゲンには乳牛のルーメンバランスを改善する働きがあり、それによって消化を促進させてトータル的な乳牛のコンディション維持が図られる。宮内さんは、1日5回稼動する自動給餌機の飼料に1頭当たり1回20g分を配合、1日で計100gを給与する。食い込み不足は乳量の減少に直結するので、牧草の質によって乳牛が選り好みしないように注意を払っている。「すべての牛が好んでビタコーゲンを食べてくれるので、嗜好性の良さを改めて実感している」と宮内さん。ビタコーゲンの効果にはとても満足しており、これからも給与方法を変えることなく継続して使用したいと考えている。
宮内さんは今後の目標として、乳量アップを掲げている。「まずは、満床になるまで牛をそろえる。目標の乳量を達成したら、乳質の向上に取り組む。2つのことを同時に追い求めるのは無理が掛かるから」。理想とするのは一歩一歩、堅実なステップアップ。つなぎ飼いや家族経営にこだわる理由はそこにある。根室市には同世代の酪農家が少なく、経営主では宮内さんが最年少となる。「この地域に限らず世代交代は大きな問題。この牧場を子どもたちに自信を持ってわたすことができるよう、努力していきたい」。次世代へつなぐ酪農経営に、ビタコーゲンが果たす役割は決して小さくはないはずだ。